愛人だった彼女

「あたしね、パパがいるの。愛人やってるんだ」
 わたしの腕の中で、彼女はその控えめながら形の良い乳房を両手で隠すようにしながら、そんなふうにつぶやいた。こういう行きずりの、一夜限りの情事の場でプライベートを聞くなんて、なんて野暮なことをしたかと自分でも思うのだけれど、お互いに肌を重ねた後のどことなく親近感にも似た感情の中で、わたしたちはぽつりぽつりと、お互いのことを話していたのだった。
 仕事は? と聞いたとき、彼女の瞳がさっと振れて、わたしは自分がまずいことを聞いたことに気が付いた。しかし彼女は一瞬の逡巡の後で、予想外のあかるい表情でそう言ったのだ。
「愛人?」その答えに驚いたわたしは、それ以上の言葉を見つけられなかった。
「そう、愛人。気楽だよ。マンション買ってもらって、お小遣いもらって、週に一日くらい一緒に過ごすの。もう2年くらいになるかな」
 愛人…。そういう存在がいることは知っていたけれど、実際に目の当たりにすると、なんだか想像していたのとは違い過ぎていてピンとこなかった。
「そういうのって、どこで知り合うの?」
「もともとあたし、出会い系で援交してて。今でもときどきはこうやって遊んでるけど、パパもその一人だったの。気に入った男の人とは直接アドレス交換して次からは直接メールしてたんだけど、パパはあたしのことすっごく好きになったみたいで『お金もマンションも全部用意するから、他の男とはやめてくれ』って。ちょうどそのころ、あたしもちょっと怖い目に遭ったばかりだったから、そういうのもいいかなって」
「愛されてるじゃない」
「あとで聞いて笑っちゃったけど、パパの娘さん、あたしと同い年らしいよ。娘と同い年の女の子つかまえて喜んでるのってどーよ、って思って」
 それからまた遊ぶようになった、と彼女は笑った。

ホーム