愛人契約の締結

「もし、よかったら、これからもこんな風に会ってくれませんか?」
 後からシャワーを浴びて出てくると、彼女はバスローブのままコーヒーを淹れて待っていた。わたしたちは肩を寄せ合ってコーヒーを飲んだ。彼女は猫舌で、熱いコーヒーを冷ましながら少しずつ飲んだ。すすっても減らないコーヒーを見ながら、彼女に対して愛情すら感じていることに気づいていた。
 最初、彼女は家庭に、旦那さんに対する後ろめたさを隠さなかった。それはそれで当然のことだろうと思った。わたしだって、何か月もかけて落ち着いたのだ。
「それなら、電話番号だけでも、交換しませんか?」
 それなら、と彼女はすぐに番号を教えてくれた。お互い、下の名前はわざと登録しなかった。これなら、誰かに聞かれても、ちょっと知り合った人というくらいで済む。
 一週間ほどして、次の連絡は彼女からだった。家にいてはお互いに長電話などできないので、トントンと話は進み、次の土曜に再び会うことになった。彼女が指定したのは、最初に二人で行ったシティホテルの一室だった。先に着いていた彼女は、コーヒーの用意をして待ってくれていた。
「あれから考えてみたんですけど、それって、愛人ってことですよね?」
 そうです、とわたしは頷いた。
「それなら、条件があるんですけど、いいですか?」
 内心不安に思いながら、わたしは頷いた。だが意外にも、彼女が出した条件はお金ではなかった。月に一度か二度、高級ホテルで会いたいということだった。なんならその費用すら、少しはもってもいいと言う。とにかく、普段旦那さんとなど遊びに行けないところに行ける関係でいたいというのだ。
 もちろん、喜んで。そんな風にして、愛人契約を締結し、わたしの愛人生活は始まった。

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